40年後の謎解き

太平洋の真ん中の無人島に不時着したアメリカ人パイロットは、怪我もなく命に別状なかったが、恐ろしく退屈だった。それで、壊れた飛行機の部品からラジオを手作りし、退屈しのぎをしたという物語なのである。ラジオをつくるには、アンテナ、同調回路、検波回路、イヤホンが最低限必要である。アンテナは導線なら何でもいいし、同調回路用のコイルもおそらく飛行機の通信装置のなかにはたくさんあっただろう。エナメル線などの導線がたくさんあれば手作りもそれほど難しくない。イヤホンも飛行機同士の通信のために常に耳につけて使っていた可能性がある。
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問題は検波回路をどうやって作るかである。目の前の空中には、目にも見えないし、匂いも音もしないが、電波が無数に飛んでいて、そこから好きな音楽を取り出すことも出来る。その「音を取り出す」装置が検波回路である。アメリカ人パイロットもずいぶんそこに苦労した。検波をするにはダイオードが必要なのだが、墜落機体をどうさがしても、ダイオードがみつからない。がっかりして諦めかけたとき、飛行機の機体の破片の一部が錆び始めているのがパイロットの目に入った。パイロットは子供時代、ラジオ少年だったらしく、鉱石ラジオを作ったことがあった。鉱石ラジオというのは、鉱石(おそらくなんらかの半導体を含んだ石)に針を接触させて、検波回路のダイオードの代わりをさせるというものである。

パイロットは、錆びた金属が、子供時代に見た鉱石に似ているということに気づいた。そこで、錆びた金属に針を当てて検波回路の代用にしてみると、見事にイヤホンから音楽が流れてきた。めでたくパイロットは音楽を聞きながら退屈しのぎをし、生き延びたという物語だった。

時間は少しさかのぼるが、その本を読んだ数年前、わたしがまだ4〜5歳だったころ、我が家にテレビが来た。いまから考えると、当然映りは非常に悪かった。それでも、スキーのジャンプで笠谷選手がメダルをとったことに感動して、妹と二人で、テレビを見ながら、椅子の上から何度も飛び降りたのを鮮明に記憶している。

テレビには、自分がみたこともない雪やスキーの映像が映っている。高知の超ド田舎でそれを観たのであるから、子供心にも「これはだいぶ遠くでやっていることだな」というのは分かった。それが鮮明とはいえないまでも、はっきりと箱の中に(テレビ)みえるのだから、非常に不思議に思った。

わたしは、親に「どうして遠くでやっていることがテレビの絵になって見えるのか?」尋ねてみた。父親が、自信満々に「電波で送ってきてるんだよ」と教えてくれた。私の頭の中では「でんぱ???余計にわかんねーよ」と思ったが、顔では分かったようなふりをしていたと思う。4,5歳の小さなこどもでも想像以上に大人に対して気を使っているものである。とにかく「電波」という魅惑的な謎が心に残った。

話を不時着したアメリカ人パイロットにもどす。彼の退屈を癒してくれたのが、またしても登場した、謎のことば「電波」だったわけである。図書室でたまたま観た本によると、ラジオでその電波を簡単に捉えられるらしい。その後数年間はわたしはラジオ少年となったのはいうまでもない。結論からいうと、わたしの鉱石ラジオ作りは成功しなかった。しかし、「電波」については、20年ほど後、理論電磁気学を学んだ時に謎が解けて、非常に感動したのを覚えている。それは20年後の謎解きだった。

しかし、この不時着パイロットの話には、こどもながらにもうひとつ謎があると感じていた。無人島に不時着したんだから、住むところも食べ物もないはず。のんきにラジオで音楽なんか聞いてる場合じゃなかったんじゃないかな?

いやいやだった読書の時間から40年後、「永遠の0」を読んで、謎は氷解した。アメリカ軍は、戦闘機が故障したり撃墜されたりして不時着するのは当然あり得るので、不時着したパイロットを救出するために、あらかじめ周辺海域に潜水艦を配備してあったのである。不時着パイロットも優雅に音楽を聞きながら救出を信じて待っていられたわけだ。

ちなみに旧日本軍の方針は、「落ちたら、捕虜にならずに死になさい。できるだけ敵艦に体当りして死になさい」というもの。それで、どんどん熟練パイロットを失っていった。現代的な感覚から言えば、非人道的な人命軽視の考えられないような方針である。そのことは、ここではおいておくとしても、「やられたら、体当りしろ」という方針は、短期的な戦術としては多少の効果はあったかもしれないが、もう少し長くみた視点、つまり戦略的に考えても大きな考え違いだと思う。
by aero_boy | 2013-09-26 15:31 | 本棚

MTBのことが多いですが,自作ものやDebianなども雑多に記録に残していくブログ


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