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エンジンの音で生き残った

祖父はクルマの運転が上手かった。田舎のまちには、ほとんど自動車など走っていなかった時代だから、バスの運転手が運転が上手いのは当たり前である。それで、招集されて戦地でも、幹部のお抱え運転手をやっていたらしい。
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あるとき、いつものように幹部を載せて走っていると、自分の運転するクルマのエンジン音に混じって、敵戦闘機のエンジン音を聞き分けたらしい。よく考えると、味方戦闘機のエンジン音と敵戦闘機のエンジン音を、しかも自分の運転するクルマのエンジンのすぐそばで聞き分けるのだから、すごい耳だ。もしかしたら、すでに味方戦闘機はほとんど飛んでなかったのかもしれない。

それで、とっさにクルマを木陰に入れた。幹部には烈火の如く怒られたが、数秒後に敵戦闘機が頭上を通過すると、その軍幹部も青ざめて黙ったという。その噂は上層部連中にもひろまったらしく、祖父はつねに最上幹部の専属運転手だった。それで生き残ることができたというのである。

徹底的に一芸にこだわって、それに習熟していれば、たかがエンジンの音を聞き分けるぐらいのことでも、命を助けることもあるんだぞと言いたかったのだろう。実際に祖父一人の命どころか、わたし自身を含めてその子孫が生きているのもそのおかげである。

「永遠の0」のラスト部分での宮部の行動が、祖父に重なってしまい、わたしのなかで、よりリアルな情景となった。

by aero_boy | 2013-08-26 17:03 | 本棚